3D 鼻モデル内の気流をシミュレーションする

嗅覚障害治療には、鼻腔の空気の流れを改善する必要がある.本研究では, 本来目に見えないこの気流を可視化することを目指した.可視化にあたり, 鼻腔形状と鼻腔への空気の流入条件をそれぞれモデル化する必要があった.前者は, 計算領域に設定した鼻孔の前から鼻咽頭までを、医療画像情報から同じ解像度の直交格子でモデル化した.非定常である後者 (吸気~呼気の一連の呼吸サイクル)は, 正弦関数でモデル化した.これを非圧縮性ナビエ・ストークス方程式で解く際に, 鼻腔形状モデルの計算格子が細かく計算量が膨大なため, MPI並列化を実装し、高速化を図った.

その結果, 流速ベクトルや流線を可視化することで, 鼻腔の流れ場の一端をとらえられた.将来は, この可視化情報を利用し, 診断支援・補助ツールとして活用されることを期待している.

■ 2023年12月 日本コンピュータ外科学会2023 での発表を基にしている

目次

計算モデル

  • グリッドサイズ : 256×448×320 (矢状面 6.4cm, 冠状面11.2cm, 軸状面 8.0cm)
  • 計算格子単位 : 0.25mm
  • 計算時間刻み : 0.0001~0.0025秒 (計算ステップごとに更新)
  • プロセッサー数 : 70
  • 呼吸サイクル : 正弦関数でモデル化
  • 一回換気量 : 630mL
  • 流体ソルバー : Nagare (iCFD) → 3D非定常・非圧縮性ナビエ・ストークス方程式
鼻腔シミュレーションのモデル

可視化手順

システム概要については、こちらを参照

鼻腔気流を可視化

左右の鼻腔流れを区別するために、3Dモデルを左右に切り開いた状態.鼻孔から放たれたパーティクルが鼻腔を通過していく様子がわかる.

術前シミュレーション

下図では、副鼻腔炎による右上顎洞閉塞の場合の鼻腔流れを可視化している.通常は、左右鼻孔の圧力差・流量ともあまり変わらないが、閉塞している場合、左右での数値に大きな差が見られる.

右鼻孔左鼻孔
ΔP [Pa]12.1516.84
Q [L/min]9.402.42
右上顎洞閉塞の場合の圧力差・流量

術前シミュレーションとして、術前の状態(現状: 上図・表および下左図)、閉塞している鼻腔を広げた場合(Modification#1:下表中央とModification#2:下表右)で、圧力差と流量の変化をシミュレートした.

鼻腔が広がるにつれ(術前→Mod.#1→Mod.#2)、左右の圧力差・流量差が小さくなっていくのがわかる.

術前 Modification#1 Modification#2
術前シミュレーション : 術前 術前シミュレーション : Mod.#1 術前シミュレーション : Mod.#2
ΔP [Pa] 12.15 16.84 9.61 12.56 6.03 6.00
Q [L/min] 9.40 2.42 8.25 3.57 6.29 5.52

まとめ

  • CFDによる診断補助の可能性を探った
  • 以下の分野への応用の可能性が考えられる
    • 手術計画
    • 鼻抵抗の改善
    • 睡眠時無呼吸症候群
  • 今後の課題
    • 計算時間/計算資源/データ収集
    • 診断ツールとして確立

参考文献

Asama ENT Clinic (https://nose-surgery.jp/)

小林正佳, “嗅覚障害 ー定義と分類,その疫学ー”, におい・かおり環境学会誌, 45巻, 4号, (2014), pp. 246-251.

内藤健晴, 宮崎総一郎, 野中聡, “鼻腔通気度測定法 (Rhinomanometry) ガイドライン”, 日鼻誌, 40巻, 4号, (2001), pp.327-331.

今野昭義, “鼻内気流と鼻腔抵抗”, 日本耳鼻咽喉科学会会報, 72巻, 1号, (1969), pp. 1-36.

Y. Asama, A. Furutani, M. Fujioka, H. Ozawa, S. Takei, S. Shibata and K. Ogawa, “Analysis of conductive olfactory dysfunction using computational fluid dynamics”, PLoS ONE 17(1): e0262579, (2022).

Asama-ENT-Clinic においワールドコラム (https://nioi.world/column)

Bethancourt L. Angel M., 浅間洋二, 村田郁子, “鼻腔内流れの数値シミュレーション”, 第36回数値流体力学シンポジウム, E10-3, (2022).

Bethancourt L. Angel M., 浅間洋二, 村田郁子, 藤岡正人, “鼻腔内流れの数値シミュレーション”, 生体医工学シンポジウム2023, E-25, (2023).

Bethancourt L. Angel M., 浅間洋二, 村田郁子, 藤岡正人, “3D鼻モデルにおける気流のコンピュータシミュレーション”, 第32回日本コンピュータ外科学会大会, 23(8)-5, (2023).

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