呼吸器系のうち,鼻孔から咽頭までの鼻腔の診療では,レントゲン・MRI・CTなどを通した画像診断や,rhinomanometryやacoustic rhinometryなどの鼻腔通気度検査が利用されている.加えて,捉えることが容易ではない,時間変化を伴う鼻腔の気流を可視化することで,鼻腔通気状態や鼻閉に関連する疾患の状態を把握し,診察・診断・治療をサポートする画像診断補助ツールの開発に取り組んでいる.
この”鼻腔の流れを非侵襲的に可視化する”ツールを通し,QOL(Quality of Life)の向上に貢献したいと考えている.
目には見えない鼻腔内の空気の流れをシミュレーション・可視化する手順は,以下のとおりである.
CBCT等の撮影データ(DICOMデータ)から計算用鼻腔モデルを作成し,流体計算の条件を設定する.ここまでの一連の流れをシームレスに生成・設定できるGUIを開発し,解析者の負担を軽減してきた.また,鼻腔モデル作成後,実際とは異なる流路結合・分割が発生していないか確認する必要があり,医学的な知見が必須である.
ソルバーにはNagareを用いて非定常ナビエストークス方程式を解き、可視化にはParaViewやClefを用いている.
鼻腔気流の非定常流体計算による呼吸の再現
数値流体力学シンポジウム 2022年発表より
呼吸は吸気と呼気の2パートからなり、鼻腔気流は時間的に変化する流体現象である.そのため,鼻腔気流を捉えるには,呼吸に伴い時間的に変化する境界条件と非定常流体解析が必要となる.加えて,鼻腔気流計算では,CBCTデータから鼻腔流路の計算格子を生成する工程が重要である.鼻腔気流の可視化結果から,吸気パートでは空気は外鼻孔から上咽頭へ流れ,呼気パートではその逆の流れが見られた.特に,吸気パートでは中鼻甲介の前方に特徴的な渦が見られ,鼻腔気流に乱れをもたらしている.
参考:Bethancourt L. Angel M., 浅間洋二, 村田郁子, “鼻腔内流れの数値シミュレーション”, 第36回数値流体力学シンポジウム, E10-3, (2022).
計算システム
生体医工学シンポジウム2023 発表より
計算システムのGUIは下図のとおり:
DICOMデータ➡格子生成➡境界条件設定➡ 計算
計算終了後に、ParaViewまたはClef3Dなどを用いて可視化している.
可視化例
参考:Bethancourt L. Angel M., 浅間洋二, 村田郁子, 藤岡正人, “鼻腔内流れの数値シミュレーション”, 生体医工学シンポジウム2023, E-25 (2023).
参考文献
Asama ENT Clinic (https://nose-surgery.jp/)
小林正佳, “嗅覚障害 ー定義と分類,その疫学ー”, におい・かおり環境学会誌, 45巻, 4号, (2014), pp. 246-251.
内藤健晴, 宮崎総一郎, 野中聡, “鼻腔通気度測定法 (Rhinomanometry) ガイドライン”, 日鼻誌, 40巻, 4号, (2001), pp.327-331.
今野昭義, “鼻内気流と鼻腔抵抗”, 日本耳鼻咽喉科学会会報, 72巻, 1号, (1969), pp. 1-36.
Y. Asama, A. Furutani, M. Fujioka, H. Ozawa, S. Takei, S. Shibata and K. Ogawa, “Analysis of conductive olfactory dysfunction using computational fluid dynamics”, PLoS ONE 17(1): e0262579, (2022).
Asama-ENT-Clinic においワールドコラム (https://nioi.world/column)
Bethancourt L. Angel M., 浅間洋二, 村田郁子, “鼻腔内流れの数値シミュレーション”, 第36回数値流体力学シンポジウム, E10-3, (2022).
Bethancourt L. Angel M., 浅間洋二, 村田郁子, 藤岡正人, “鼻腔内流れの数値シミュレーション”, 生体医工学シンポジウム2023, E-25, (2023).