都市風況下でのドローン航路計画に関する研究開発

昨今ドローン活用の幅は大きな広がりを見せつつありますが,2022年12月5日には無人航空機の有人地帯上空での補助者なし目視外飛行(レベル4飛行)が解禁され,都市部におけるドローンの飛行も現実味を帯びてきました.風はドローンの飛行にとって重要な要素であり,特に都市部ではビル風と呼ばれる局所的かつ突発的な強風が至る所で発生するため,都市部において飛行経路を計画する際には,風況を考慮することが必要不可欠です.流体解析による風況予測では,都市部でのドローン航路の評価に必要となる空間解像度の高い風速データが獲得できます.都市部での風況予測には詳細な建物データが必要であり,これに関しては2021年より国土交通省から公開されている3D都市モデル “PLATEAU” を活用しており,2022年から東京23区の主要エリアでの風況予測を「都市風速マップ」として整備,一部公開しています.当社では,都市風速マップで蓄積した風速データを活用し,複雑な風況が予想される都市部でのドローン航路計画の助けとなる解析ツールの研究開発を行っています.

2022年のレベル4飛行解禁は,主に物流分野でのドローンによる送配送や建設現場での測量などを想定して行われました.2024年問題では特に物流分野におけるトラックドライバー不足が懸念されています.また,2025年の大阪・関西万博では空飛ぶクルマの実演飛行が予定され,注目を集めています.

関連リンク:

国土交通省 無人航空機レベル4飛行ポータルサイト (https://www.mlit.go.jp/koku/level4/)

国土交通省 無人航空機飛行マニュアル 2022/12/5版 (https://www.mlit.go.jp/common/001521378.pdf)

経済産業省 日本発のドローンの運航管理システムに関する国際規格 (https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230427001/20230427001.html)

経済産業省 NEDO ReAMo 次世代 空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト (https://reamo.nedo.go.jp/)

国土交通省 3D都市モデルオープンデータ化プロジェクト PLATEAU (https://www.mlit.go.jp/plateau/)

都市風速マップ YouTubeチャンネル (https://www.youtube.com/@iCFDwind)

都市風速マップ 紹介ページ (https://icfd.co.jp/casebook/archives/1123)

都市中空・都市上空での風況

東京の超高層ビルの高さは100から200 [m] 程度です.ここでは説明の都合上,超高層ビルよりも低高度を都市中空,超高層ビルよりも高高度を都市上空とします.都市中空では,地上よりも強い風が吹いており,ビルが林立するため風が乱れています.都市上空では,風を遮るビルが無いため,都市中空よりもさらに強い風が吹いています.都市中空と都市上空のいずれが航路として適しているかは,飛行目的や飛行距離,飛行性能によるでしょう.ドローンは運動性能が高く小回りが利き,騒音も比較的小さいため,都市中空の航路も現実的だと考えられます.ドローンが都市中空,空飛ぶクルマが都市上空,さらにその上を飛行機が飛ぶような時代がやってくるかもしれません.

動画①では,地上 h = 1.5 [m], 海抜高さ z = 50 [m], 100 [m] ,150 [m] の順に風速分布を示しており,高度が上がるにつれて強風域が占める範囲が増えることが確認できます.

動画① 地上1.5 [m], 海抜高さ 50 [m], 100 [m], 150 [m] での風速 (新宿ビル群, 南風, 上空風速 10 [m/s])

補足:羽田空港に着陸する飛行機は,品川では1000ft (= 305 [m]),六本木では2000ft (= 610 [m]),新宿では3000ft (= 915 [m]) の高度を飛行しています.

強風域の3次元的な可視化

都市部ではビルに遮られて吹き降ろす風や,大通りを吹き抜ける風などが組み合わさって複雑な強風域が形成されます.動画②では,都市部に見られる強風域を海抜高さ50 [m]まで,3次元的に可視化しており,強風域を一望できます.ドローンの運航において強風域は高リスクの空域であり,避けて飛ぶことが望ましいでしょう.

動画② 強風域の3次元的な可視化 (渋谷駅周辺 南風, 上空風速 10 [m/s]) 都市全体が強風域で覆われてしまうことを避けるため,50 [m] より上の強風域は可視化していません.

飛行中のドローンから見た強風域

動画③は,道路直上,地上 30 [m] を飛行するドローンから見た強風域です.低空を飛行するドローンから見ると,上空が強風域に覆われている様子が分かります.また,地上付近であっても,ビル風に起因する強風域が所々で見受けられます.こういった強風域の分布は,上空の風向によって大きく異なります.

補足:上空の風が強い理由,言い換えれば,地上の風が弱い理由は,風が地面や建物から摩擦抵抗を受けて弱まるためです.

動画③ 飛行中のドローンから見た強風域 (六本木・麻布台ヒルズ周辺, 南風, 上空風速 10 [m/s])

強風域を避ける航路

都市風況下でのドローン航路計画において,強風域を避ける航路計画が重要となります.動画③のように,風速分布を考慮せずに,都市データに基づいて大通りに沿った航路を計画をすると,航路が強風域を通過してしまう恐れがあります.強風域を避ける航路計画を行うためには,都市データと強風域を確認しながら航路計画が行えるツールが必要となります.

突風について

都市部では局所的かつ突発的な強風が発生します.そして,急激な風速の変化はドローンの飛行を不安定にします.動画④は,ビルに遮られて地上に吹き降ろす強風を瞬時風速と時間平均風速でそれぞれ示した例です.瞬時風速では間欠的に発生する突風の位置や強さが確認できます.このように,時間的に変化する現象を捉えるには非定常解析が必要不可欠です.

間欠的な強風域は,風速の変化が著しく,定常的な強風域よりもリスクが大きいと言えます.しかし,ある瞬間の風速,あるいは時間平均風速に基づき航路計画を行った場合,時間的に変化する間欠的な強風域を見落としてしまう可能性があります.従って,複数の瞬間の風速,すなわち非定常な風速を確認しながら航路計画を行う必要があります.

動画④ 非定常解析による突風の予測 (品川駅周辺, 南風)

補足:ビル建設や街区デザインでは風環境評価を目的とした風況予測が行われます.風環境評価では,必要とされる精度と計算負荷の観点から時間平均風速が用いられます.

ドローン航路の流体力学的評価(2023年度実施予定)

ドローン航路を定量的に比較するための評価量とその活用方法 (評価手法) の研究を行います.航路上の風速ベクトルは,航路上に正射影した接線成分 (追風・向風成分) と法線成分 (横風成分) に分けられます.追風・向風成分は飛行時間や電力消費量に影響し,横風成分は飛行安定性に影響します.さらに,航路上の各点で飛行速度を定めれば,航路上での相対風速が得られます.さらに,相対風速から流体抵抗を求めて,航路に渡って積分すれば,航路のエネルギー損失が求められます.この評価量を用いた評価手法として,例えば,追風・向風成分を用いることで「航路A:短い航路」と「航路B:向かい風を避ける長い航路」のどちらが短時間で目的地に到達できるか,などの比較が行えます.また,積分前の横風成分を評価することで,航路の何処にリスクが存在するかを予測できます.評価量の表示方法もまた評価手法の一環として重要となります.風速データから鉛直成分を抽出し,ドローンの発着場所や充電設備に適した場所の探索に役立てることなども考えられます.

研究段階すなわちツール開発前の風速データの操作にはParaView (オープンソース) とvtkフォーマットを用います.ParaViewに対応した3次元風速データは,非定常風速 (瞬時風速データのセット) と時間平均風速があります.例えば,上述の「ドローン航路の流体力学的評価」に必要な航路上の風速データを抽出するには,風速データをParaViewで開き,強風域を可視化し,PolyLineとして航路を入力し,航路上の各点に風速データを内挿し,航路上の各点の座標とその位置での内挿された風速をcsv形式で出力します.

ParaViewを用いて都市データ上に航路を作成する例

研究段階ではParaViewのPolyLineSourceフィルタを用いて航路入力を行っています.2024年度開発予定のツールにおいてもParaViewのPolyLineSourceフィルタと同様の操作感の航路入力機能を実装する予定です.

ParaViewを用いて道路に沿ったドローン航路を作成する様子

AIの活用について

流体解析の代替として風況予測への活用,航路計画への活用,研究開発における論文要約・文書作成・コーディングへの活用(準備中)

ドローン航路評価ツール(2024年度実施予定)

研究段階で行っていた数値データの可視化,航路の入力,航路の流体力学的評価などの一連の作業をユーザーが行えるようドローン航路評価ツールの開発を予定しています.

ある瞬間の3次元風速データは数GB,非定常現象を捉える時間方向の解像度をもつ3次元風速データはその100倍程度のデータサイズです.初期段階では,ファイルサーバーごと提供することが考えられます.将来的には,データ処理をホストサーバーで行い,クライアントで表示することが考えられます.

都市風況に基づくドローン航路の最適化(2025年度実施予定)

ドローン航路評価ツールの発展的な機能としてドローン航路の最適化機能の研究開発を行います.「ドローン航路の流体力学的評価」の評価量を最小化するように航路の最適化を行います.法的な制約条件を含めて,航路計画に伴う様々な制約条件を集約し,最適化の際に反映する必要があります.

ドローン航路網の計画 (未定)

複数のドローンが飛び交う空域において,各ドローンが複数の発着場所を経由する航路の計画,最適化を目指します.単一航路から (単一航路を要素とする) 航路網に評価対象を拡張し,航路網の効率改善 (飛行時間・電力消費) や安全性向上 (飛行安定性) に役立てます.

◆ 上記の内容は、2023年度の東京都 新製品・新技術開発助成事業に応募したものです.

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