ガス拡散予測

ガスが漏洩あるいは化学反応により発生すると,ガスは流れに乗って大気中を拡散していきます.ここでは,流体解析によりガスの拡散を予測した例を紹介します.

LPガスの漏洩と拡散

液化石油ガス (LPG) はガスコンロや給湯器などの燃料として広く普及しています.LPGのボンベや容器では,ガスを圧縮することで,ガスを液化させて保管しています.そのため,経年劣化等が原因でボンベや容器からLPGが漏洩すると,(大気に曝されたLPGは直ちに気化して) 勢いよくガスが噴出する可能性があります.そして,空気中のガス濃度が爆発下限界濃度に達すると,静電気などがきっかけで爆発する恐れがあります.ここでは,ガスボンベからガスが噴出した際に,どのようにガスが拡散するのか,流体解析により予測した例を紹介します.ガスボンベの破損は,ピンホールのような極めて小さいものを想定しており,ガスの噴出条件は,あらかじめ実験において計測した噴出孔周辺の速度分布と濃度分布を用いました.動画①は,路地のような細い空間でガス漏洩が発生した場合のガス濃度の変化を表しています.勢いよく噴出したガスは,周囲の空気とかき混ぜられ,すぐに濃度が低下します.この現象は乱流拡散と呼ばれ,無数の渦がもたらす効率的な拡散現象です.動画②は,噴出孔の前に保護パネルが設置されている場合の結果です.この場合,噴出したガスはパネルに遮られて上下それぞれの方向に向かいます.ここでは天井が無いため,上方に向かったガスは拡散しますが,下方に向かったガスは行き場を失って地面付近に滞留します.

動画① 噴出方向にパネルが無い場合
動画② 噴出方向にパネルがある場合

十分に長い時間が経てば,空気より重いガスは沈降しますが (あるいは空気より軽いガスは浮上しますが),高圧ガスの漏洩では,噴出に伴う乱流拡散により瞬時にガス濃度が低下するため,比重の影響は限定的で,ガスのふるまいはダイナミックな流れ (乱流) に支配されます.こういった場合,流体解析によるガス拡散予測が効果的です.障害物の設置状況など,任意の解析条件を課した上で,ガスのふるまい,ガス溜まりの発生過程を予測します.

一酸化炭素ガスの充満と換気

換気が不十分な厨房でガスコンロ等を使用すると,燃焼反応に必要な酸素が不足するため,不完全燃焼となり,一酸化炭素ガスが発生します.空気と一酸化炭素ガスは常温では同程度の重さの気体ですが,高温のガスは大きな浮力をもつため,燃焼に伴い発生した一酸化炭素ガスは勢いよく上昇します.その結果,一酸化炭素の濃度は天井付近から順に高くなります.一酸化炭素ガスを吸引してしまうと,一酸化炭素中毒の危険性がありますが,一酸化炭素ガスは無色・無臭であるため発見が難しく,警報器の設置が推奨されています.動画③では,一酸化炭素ガスが室内に充満し,警報器の位置での一酸化炭素ガスの濃度が閾値に達した時点 (ガス発生から1114秒時点) で,2台の換気扇を稼働させて汚染された空気を排気し,下部の給気口から新鮮な空気を取り込んでいます.不完全燃焼により生じた高温の一酸化炭素ガスは天井付近に留まるため,天井付近に設置された換気扇が稼働することで,一酸化炭素ガスを迅速に排気することが可能です.

動画③ 一酸化炭素ガスの充満と換気 (1114秒から換気)

給気と排気が入れ替わる換気扇

動画④は,給気と排気が交互に入れ替わる換気扇による換気の様子を表しています.室外からの気流に仮想粒子を含ませることで新鮮な空気を可視化しています.色は,粒子が密だと黄や赤,粒子が疎らだと青や白になり,空気の新鮮さを表しています.給気された新鮮な空気は,換気扇の生み出す気流に乗って壁沿い (2次元的),特に稜線沿い (1次元的) に押し広げられます.排気の際には換気扇近傍の空気から満遍なく (3次元的) 排気されます.従って,この換気扇の設計では,給気は換気扇の遠くまで到達し,排気は換気扇近傍から行われるため,直前に給気した新鮮な空気を排気してしまうということはほとんどありません.

(第1種換気では給気と排気の両方に換気扇を用います.給気と排気が交互に入れ替わる換気扇は第1種換気の特殊な例と言えます.)

動画④ 給気と排気が交互に入れ替わる換気扇

くしゃみの飛沫とエアロゾル

くしゃみには視認できる飛沫から目に見えないエアロゾルまで大小様々な粒子が含まれています.動画⑤は,くしゃみ (くしゃみを模擬した噴流) に含まれる飛沫やエアロゾルのふるまいを可視化した例です.すべての粒子の密度は同じ (水の密度) で,粒子直径が異なります.このくしゃみの場合,100ミクロンの飛沫 (赤色) は空気抵抗ですぐに失速して最も手前に落下し,1000ミクロンの飛沫 (黄色) は慣性の影響で最も遠くに飛びます.飛沫よりもさらに小さいエアロゾル (寒色系) は,空気中を浮遊し続けます.

動画⑤ くしゃみの飛沫とエアロゾル

扉開放による換気

窓や扉の開放による換気は周囲の気流の影響を大きく受けます.動画⑥は,横風を受けて航行するフェリーにおいて,船室の扉を開放することで,船室を換気する様子を表しています.フェリーは右から左に向かって航行しており,下から上に向かって風が吹いています.動画左上は一階の車両甲板での風速を表しており,動画右上は客室のある2階デッキの風速を表しています.客室の扉は緑色で表されており,30秒時点で扉が開放されます.動画中央段の左,中央,右はそれぞれ2階デッキを真上から見た際の風速,圧力,古い空気の濃度を表しています.中央段右を見ると,扉が開放される30秒時点まで,客室は古い空気で満たされていますが,扉が開放されるとすぐに新鮮な空気が取り込まれ,扉を開放してから30秒程度で,古い空気の濃度は半減します.このように,相対的な風向きに対して適切な扉を開放することで,効果的な換気が行えます.また,空気を取り込む扉 (左前方扉) の付近には,デッキ上よりも強い気流が生じるため,複数の扉を同時に開放する際には突風に対する注意が必要です.

動画⑥ 横風を受けて航行するフェリーの客室扉開放による換気の様子

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