高層建物群周辺の風況解析   bldgwind.pdf

はじめに

高層建物群周辺ではビル風が卓越し,歩行者が歩きづらかったり,自転車が転倒したりといった問題が発生する. ここでは,流体解析を活用して「風速が大きくなる場所」や「風向が局所的に変化する場所」を予測することで,ビル風の被害が発生しやすい場所の予測を試みた. また,それらの位置でなぜ大きな風速や局所的な風向の変化が生じるのか考察を示した..

解析手法

流体解析の基礎方程式は非圧縮性Navier-Stokes方程式とし,離散化には有限差分法を用いる. 流体と個体の境界はImmersed boundary method (IBM)で取り扱う. スカラー,ベクトル,テンソルの諸量はスタガード配置である. また,計算格子は八分木構造に基づくBlock-structured adaptive mesh refinement (SAMR)により生成され,流れ場に応じて動的に最適化される.

解析条件

Wind Direction
   
Vertical Distribution

図1 建物形状モデルと風向き
 

図2 流入境界面での風速の鉛直分布

 

図1に流体解析に用いる建物形状モデルと風向きを示す. 今回はgoogle mapを参考に対象地域の代表的な建物を選定し,その寸法を測定して簡易的な3次元形状モデルを作成した. 風向きは,対象地域の東側は海へと続く平坦な地形であること,春から夏にかけての平均風向がおおむね東風であることから決定した. 大気境界層内の風速の鉛直分布は地面との摩擦を考慮してべき乗則分布で与えた.

長さl[m]と風速u[m/s]は,図1の赤紫色の建物の幅 l0[m]とBuilding 2の建物高さでの風速 u0[m/s] を用いて,それぞれ無次元長さL=l/l0(長さ比)ならびに無次元速さU=u/u0(風速比)で表す. このとき,時間 t [s]に対する無次元時間は T=tU/L である. 計算領域はLx/l0=Ly/l0=Lz/l0=20の立方体領域である. 続いて,計算領域の流入面(風上面)での風速の鉛直分布(流入境界条件)を図2に示す. 大気境界層内の高さ0≤z/l0≤15 ではz/l0= 3においてu/u0=1をとる,べき指数1/5のべき乗則分布とした. また,大気境界層外の高さ150≤20ではu/u0=1.38の一様風速とした.

結果と考察

Velocity Vector

図3 風上側から見た高さL=0.25での速度ベクトル(瞬時値)

Velocity Distribution

図4 上空から見た高さL=0.25での速度分布(瞬時値)

 

図3に示すようにBuilding 1とBuilding 2の間の道路では大きな風速が発生している. 一般的に地面に置かれた物体まわりの流れでは,物体の前後で速度が小さくなり,物体の側方や上方で速度が大きくなる. 同様に建物を避ける流れ(剥離流れ)でも建物の側方で風速が大きくなるが,Building 1とBuilding 2の間の道路ではそれぞれの建物の剥離流れが強め合い,さらに大きな風速が発生している.

図4では個々の建物のスケールで剥離流れ(風速大)や後流域(風速小)が発生していることが確認できる. 加えて,高層建物群のスケールに対応する大きな流れの構造(剥離流れや後流域)もみられる. 例えば,図3においてBuilding 2の右奥の道路にみられる大きな風速は,高層建物群の剥離流れに起因すると考えられる.

続いて,立体的な風の流れ構造を把握するため,流線を用いた可視化を行い,図5に示す.図5aの橙色の流線は,風が高層建物群を避けるように流れ,大きなスケールの剥離流れとなる様子を示している. 次に青色の流線は,風がBuilding 2の上方に抜けた後に,Building 2の背後に吹き下ろす様子を示している. 最後に緑色の流線は,風がBuilding 2の風上側で旋回流となり,馬蹄形渦となる様子を示している. さらに,速度ベクトルを用いて,緑の流線で示された馬蹄形渦の断面の流れを図5bに示す. Building 2の風上側であるにもかかわらず,馬蹄形渦の周辺では局所的な旋回流が発生しており,歩行者にとって予期せぬ方向に風が吹くことが想定され,横風の一因になると考えられる.


Framework Visualization
 
Sectional Vector
(a) 高層建物群まわりの流れ(橙),Building2の背後での吹き降ろし(青)
Building 2の風上側の地面付近の馬蹄形渦(緑)
 
(b) 馬蹄形渦の断面ベクトル
図5 流線を用いた3次元的な流れの構造の可視化(瞬時値)

参考文献

[1] 日本建築学会, 建築物荷重指針を活かす設計資料2, 丸善出版, (2017).