ダムブレイク問題   dmbrk.pdf

はじめに

自由表面と呼ばれる水と空気の界面は,海や川,蛇口から流れる水など至るところで目にすることが出来る. 自由表面を取り扱った代表的な実験としてダムブレイク問題が挙げられる. ダムブレイク問題では,水槽の一方に堰き止めた水を一気に解放し,水のふるまいを観測する. ここでは,水が張られた水槽(濡れ面)と張られていない水槽(乾き面)の両方を取り扱ったJanosiら水槽実験[1]を参考にし,ダムブレイク問題の流体解析を行う.

数値解析手法

基礎方程式は非圧縮性Navier-Stokes方程式とし,離散化には有限差分法を用いる. スカラー,ベクトル,テンソルの諸量は直交等間隔格子におけるスタガード配置である. 自由表面(水と空気の界面)はVolume-of-fluid(VOF)法[2]で取り扱い,水の分布を表すVOF関数の輸送にはドナー・アクセプター法[2]を用いる. このとき,界面形状の再構築にはWeighted linear interface calculation(WLIC)[3]を用いる.

数値解析条件

実験[1]で用いられた水槽の寸法と初期水位は図1に示す通りである. ただし,水槽の奥行(y方向)が明記されていないため,本解析では水槽の奥行を15cmとする. 実験ではt=0 secから水門(Lock gate)を鉛直上向きに1.5 m/sで引き上げ,水槽の左側に堰き止められている水塊を解放することで波頭(Wave crest)を作り出している. 数値解析においても同様に水塊の解放を行い,濡れ面(d=38mm)と乾き面(d=0mm)の2ケースを取り扱う. 計算格子は幅2mmの立方体格子とする. 壁面の境界条件にはすべり条件を用い,自由表面の境界条件では空気抵抗と表面張力を考慮しない.

Tank Initialization

図1 濡れ面での波頭の伝播と砕波

Transmission and Wave-breaking

図2 濡れ面での波頭の伝播と砕波

Tip Wave Progress

図3 乾き面での先端波の進行

数値解析結果

図2に示すように濡れ面の数値解析結果では,水塊の解放に伴う波頭の発生と伝播,それに続く砕波が良く再現されている. さらにt=0.53sec以降では砕波の進行が捉えられている. また,図3に示すように乾き面の数値解析結果では,水槽の底面を先端波が進行していく様子が再現されている. 濡れ面での波頭の伝播や砕波は,海岸での波の浅水変形にみられ,また,乾き面を先端波が進行する様子は,津波遡上や洪水にみられる現象である. 本解析手法を用いることで, 砕波を伴う複雑な自由表面問題を取り扱うことが可能である.

Tip Wave Progress

図4 濡れ面での波頭の伝播と砕波

上記の数値解析では,壁面摩擦を省略し,壁面の境界条件としてすべり条件を採用したが,濡れ,乾き面ともに水のふるまいが良く再現されていた. 確認のため,すべりなし条件を用いて乾き面を解いた結果を図4に示しておく. 海洋工学,海岸工学などで注目されるスケールでは,壁面摩擦や表面張力のような面積力が重要な役割を担う場面は少なく,一方で重力のような体積力が重要な役割を担う.

参考文献

[1] I. M. Jonosi, D. Jan, K. G. Szabo and T. Tel, “Turbulent drag reduction in dam-break flows”, Experiments in Fluids, Vol. 37, (2004), pp. 219-229.
[2] C. W. Hirt and B.D. Nichols, “Volume of fluid (VOF) method for the dynamics of free boundaries”, J. Comput. Phys., Vol. 39, (1981), pp. 201-225.
[3] K. Yokoi, “Efficient implementation of THINC scheme: A simple and practical smoothed VOF algorithm”, J. Comput. Phys., Vol. 226, (2007), pp. 1985-2002.