流れのメカニズム

流れを考えようとするとき,非常に多様な流れのパターンがあることにすぐに気が付くと思います.谷川を例にとって考えても,初めは細く静かな流れも大きな岩の後ろでは渦を巻きますし,大小さまざまな岩を縫う複雑な流れにもなります.また,ある時は滝となって流れ落ち、澱み,急流からゆったりとした流れになります.

空気の流れである風を考えてもほとんど流れを感じさせない静かな状態から心地よいそよ風,強くなると台風の時のような荒々しい流れまでがあります. これらをひとまとめにして捉えることは不可能ですので,まずは流れのさまざまな分類を考えることからはじめましょう.

流れの粘性と慣性

粘性とは流体の粘り気の程度を表しています.これは物理的に隣の流体部分となるべく一緒に運動しようという性質です.一方,慣性とはその流体部分があくまでも同じ速度でそのまま同じ方向につき進もうとする性質です.この2つの力,粘性による力,粘性力と慣性による力即ち慣性力とのバランスが流れの特性を決める重要なファクターとなります.同じ流体であってもこのバランスの変化,つまり流れが速くなるとか,物体のスケールが変わるとかによって流れの様子は千差万別に変化していくことになります.逆にこの慣性と粘性のバランスの比が同じであれば,流れの様子も同じような模様になることが分かっています.この比のことを流体力学では「レイノルズ数」という言葉で表現しています.レイノルズ数を一致させることで,実際の飛行機や自動車,船などの周りの流れの様子を模型を使った室内での実験で再現することも可能になりました.

流れの剥離

流れを分類するときに「剥離した流れ」と「剥離していない流れ」とに分けて考えると便利なことがあります.この「剥離」或いは「剥がれ」と呼ばれる概念は主として「速い流れ」に有効なものです.剥離していない流れの典型的なものは「飛行機の翼まわり」のような流れです.これは物体の表面に沿ってきれいに後端まで流れているような流れです.

また,この逆が「円柱をすぎる流れ」のように表面に沿っていた流れがあるところで突然表面から離れてしまう,といった流れです.この剥離が起こるか起こらないかは「物体の形状によって決まる」ことが殆どです.飛行機の翼のように剥離を起こさない,或いは起こしにくいような形は「流線型(streamlined body)」と呼ばれ,円柱のように流れがすぐ剥離してしまうような物体を「鈍い物体(bluff body)」と呼ばれます.

剥離とはどういうことかよく見てみると,流れに垂直な方向に流れの速度が大きく変化して,流れが層となって物体から剥がれていく場合が殆どで,そのような速度変化の大きい層は「せん断層」と呼ばれます.

この「せん断層」は目には見えない小さな渦の集まりと見なすことができます.この小さな渦は融合して目に見える渦に成長していきます.「せん断層」は本来非常に不安定で剥離や流れが常に激しく変動している源にもなっています.即ち,「鈍い物体」の後ろには剥離した大小様々な渦が混ざり合い,常に変動している流れになっており,流体現象の中で大変面白くかつ極めて取り扱いの難しい領域になっています.

定常な流れと非定常な流れ

遅い流れでは流れのパターンが時間とともに殆ど変化しません.このような時間とともに流れのパターンが変化しない流れは「定常な流れ」と呼ばれます.飛行機の翼のような剥離のない流れでは速い流れであっても「ほぼ定常な流れ」が実現されることがあります.これに反して剥離した速い流れでは流れは大きな変動を繰り返し,流れのパターンは時々刻々と変化しています.このような流れは「非定常な流れ」と呼ばれます.鈍い物体をすぎる速い流れは常に「非定常」であり,流れの複雑さ,多様性はこの「非定常性」によることが多いです.

「渦」というのは鳴門の渦の象徴されるように極めて日常的な言葉であるとともに流体力学的にも大切な概念です.一般的には流体が何らかの意味で回転しているところが「渦」と呼ばれています.力学の重要な原理のひとつとして「角運動量保存則」があります.これは回転しているものは積極的に回転を止めようとしなければいつまでも回転し続けようとする性質をもつということを表現しています.流体の中でもこの原理はそのまま成り立ちます.即ち,流体中で回転している部分があるといつまでも回転し続けようとします.この回転を止めようとする力は粘性によるものだけであって,粘性の非常に小さい,レイノルズ数の高い流れでは「渦は中々消えません」.また「角運動量保存則」は逆の捉え方もできます.即ち初めに渦がなかったなら,粘性が積極的に影響力をもたない時には「渦は生じない」ということです.

それではどうして「渦」はできるのでしょうか?1つの理由としては物体表面で流れの速度差が大きくなる場合が考えられます.つまり流れが物体に当たったとき,流れは物体を避けて通ろうとするが物体表面では粘性のおかげで無理やり流速が0になってしまいます.すると,物体表面のすぐ外側では速い流れがあるわけではないから,大きな速度差が物体表面近くにできます.こうしてこの物体表面付近に小さな渦の集まりを見なせる層ができます.この層の中では流れは回転的な動きをしているからです.ここで流れの剥離が起こるとこの回転的な流れ,即ち小さな渦が物体表面近くから剥がれて流れの中に飛び出します.この「小さな渦」が融合して「大きな渦」に成長していくのです.

亜音速,遷音速,超音速

空気のような流体ではその圧縮性が大きな問題となることがあります.「亜音速流」と呼ばれる音速に比べて遅い流れではそれほど問題になりません.しかし,「音速」と「流速」が同程度になる「遷音速流」では流体の圧縮性が問題となり,圧力や密度が急激に何倍も変わる面,即ち衝撃波が流れ場の中に発生します.「超音速」で動こうとするとこの衝撃波が常に物体の前に壁のように立ちはだかるので,「超音速」飛行は音速以下で飛ぶのと比べ極めて難しくなります.この流速と音速の比はマッハ数と呼ばれています.マッハ数が0.2程度以下の流れでは圧縮性の影響は殆ど考える必要がないとされています.これは時速200km程度にあたるので,地上の乗り物と考えるとき,流れは圧縮性が無いとして取り扱うのが普通です.