流れの世界

流れとは何か

流れとは何でしょうか?あまりにも日常的なので定義しようとするとかえって難しくなってしまいます.流れそのものについて考える前に「流れるもの」について考えた方がわかりやすいかもしれません. 流れるものですぐ思いつくのは「水」でしょう.私たちがいつも見て触れて感じ取れる最も大切なもののひとつです.このような流れるものは科学技術の世界では「流体」という言葉で呼ばれています.この水、或いは流体の動きが「流れ」と呼ばれるものです.

古今東西を問わず、人は水の流れに親しんできました.水がどう動いていくかということは誰でも直感的にわかっています.しかし、流れの細かな構造がどうなっているかを知ろうとすることは、谷川の流れを思い浮かべればすぐわかるようにそう簡単なことではありません.

流れるものとして、水ほどすぐには思いつかないかもしれませんが、同じように大切な流体があります.「空気」です.私たちはいつも空気の中にいるわけですが、空気が透明であることと、水に比べるとはるかに軽いため「流れるもの」としての意識は薄いかもしれません.しかし、流体として考える時、空気は水と並んで最も重要なもののひとつです.空気の流れは日常意識にのぼることはそれほど多くないけれど、例えば風が吹くということは、空気が流れているということに他ならないわけです.

流れを知る

人間は長い間、流れを見続けてきているので、有史以前から流れに関する知識が集積されています.ギリシャ時代のアルキメデスの原理あたりからが「流体力学」という学問の始まりであると考えてよいかもしれません.しかし、流体といえども通常の運動法則にのっとって動いていくわけですから、力学法則が数学的な意味で確立したニュートンの時代を過ぎて、初めて現在の形の学問体系が出来上がってきたのは勿論です.

ニュートン以降、ベルヌーイ、オイラーなどの有名な数学者、物理学者たちによって次第に学問としての流体力学が形作られてきました.現在、我々が流体運動を支配する最も基本的な方程式と考えられているナヴィエ・ストークス方程式navier-stokes equation)と呼ばれるものは19世紀になって確立したものです.それ以後、流体運動の数学的な性質の研究はほとんどこのナヴィエ・ストークス方程式に基づいて議論がされてきています.

とにかく、人間は空気という流体の中で常に生活していて、人間が動けばまわりの空気も動くわけですから、流れとは切っても切れない縁があります.そのわりに人間が流れについて知らないというのは、空気や水が透明で、動いているということを見ることが難しいからかもしれません.流れの運動を調べようとする時もこのことは大きな問題で,ただ観察しようと思っても中々見ることが難しいです.そこで実験的に流れを調べようとするとき、いかなる流体がいかなる運動をしているかを見ることが重要になります.これが流れの「可視化」と呼ばれるものです.流れの中に微粒子を混ぜ、光を当ててみるという方法がすぐ思いつきますが、色々な方法が流れを見るために開発されてきました.その結果、今では色々な方法で色々な角度から流れをみることが可能になってきて,流れに関する私たちの知識は非常に大きなものとなってきました.

また、流れを調べる別の方法もあります.それは流れを支配する基礎方程式であるナヴィエ・ストークス方程式を解くことによって純粋に数学的、理論的に流れを調べていく方向であり、流れの一番基本的なことはこういう形でも調べられてきました.しかし、ナヴィエ・ストークス方程式は非線形性という非常に取扱いにくい性質をもっているので、複雑な流体現象を理論的に調べるということは殆ど不可能に近かったのです.しかし、コンピュータが出現したことにより、この方程式を計算機の力を借りて解く、ということが可能になり、実験で調べるのと同じようにかなり複雑な流体現象まで計算機を用いた数値解析により言及することができるまでになりました.今まで実験や理論ではよくわからなかった現象が解明され始めています.こうして「計算流体力学」という新しい時代が始まろうとしています.

流れの応用

流体力学が人間の好奇心を満たすための学問から、実用の学問へと変身を遂げていったのは、20世紀になって飛行機が実用化されてからです.飛行機は空気の流れを利用して空を飛んでいるので、流体力学の知識なしにはよい飛行機をつくることはできません.飛行機のための流体力学が過去最も深く,かつ広く研究されてきた分野でしょう.また,船も水を利用して動くので,これに対しても多くのエネルギーが費やされました.勿論、流れとして共通するものが多いのでお互いに進歩を助け合ってきました.

流体力学はこのように飛行機や船をよりよいものにするために大変役に立ってきましたが、最近では自動車の高速時の安定性や風切音の解析のためにはなくてはならないものとなってきています.空調機器を使用する時の空気の流れ、電子機器の冷却、エンジン内部の流れなどにも利用されています.また、原子炉の中の熱を取出すための冷媒の流れ、ビル風やトンネル内の排ガスの流れ、さらには汚染物質が大気中或いは海洋中をどう拡散していくか、さらには台風の動きの予測など、あらゆる分野で必要不可欠な道具となってきています.

このように流体力学は飛行機、船に関わる流ればかりではなく、広い応用範囲をもっています.他にも例えば動物の体の中には血液の流れが極めて重要な役割を担っていますし、火山の溶岩も流体のひとつと考えられます.大きく地球をみると、大気の流れ、海水の流れも日常生活に深く関わった流体力学の問題です.地球を離れて重力の小さい世界での流れも研究されています.

もっと大きく宇宙をみてみると、銀河系全体の動きは,あたかも流体のごとく振舞うこともわかっています.また、別の見方をすると、人の流れ、車の流れというものも流体として考えることができます.これらは水や空気のように美しい数学的な形式に乗せることができないので、流体力学の対象にはなりにくいのですが,流体力学の概念を使ってかなり上手く説明することができるのです.